大切に育てた庭木を手のひらサイズで残す「メモリアル盆栽」

庭で大切に育てていた樹木を手のひらサイズの盆栽として残す「メモリアル盆栽」を、広島の造園業「Waka環境デザイン事務所」が手がけている。

庭付きの住宅を手放す際、庭の木は処分されてしまいがちだが、この方法なら残すことができると喜ばれ、広島だけでなく東京からも注文が来ているという。事務所代表の上田和希さん(30)は「思い出が詰まった木を残したい」と、依頼者から託された庭木を盆栽として丹精込めて育てている。

「両親が大切に育てた木だから」


広島市安佐北区の同事務所を訪ねると、ゴヨウマツやサツキなどの盆栽が並べられていた。このうちゴヨウマツは約1年半前に東京都内の顧客からメモリアル盆栽づくりを依頼されたもの。もとは自宅兼工場の庭木として植えられていたが、引き払うことになり、「両親が大切に育てていたゴヨウマツを残したい」と依頼があったという。


盆栽を育てるには根が重要になるが、このゴヨウマツの根の掘り出しは困難を極めた。庭には石垣で囲まれた池があり、ゴヨウマツの根はその石積みの中にまで伸びていたためで、慎重に根を掘り出す必要に迫られた。


いまは盆栽として生まれ変わり、事務所の庭で育てられている。育成状態をみて今後、依頼者のもとに返すという。


メモリアル盆栽を手がけるきっかけになったのは、造園会社で庭師として働いていた約7年前。遺産相続などの理由で自宅を手放すことになった人が、両親が大切に育てていた庭木を伐採することを決断したが、「伐採した際の依頼者の悲しむ姿が忘れられなかった」(上田さん)。


こうした経験から上田さんは盆栽についても勉強を重ね、約4年前に独立し、家族が大切にしていた庭木を守る「メモリアル盆栽」を提案するようになった。


相続などさまざまな理由で庭付きの住宅を手放す人がいる。だがメモリアル盆栽として残すことで、マンションで育てることができ、老人ホームに入所した家族に渡したりすることもできる。家族が大切に育ててきた庭木を残すことができるメモリアル盆栽について知ったときに喜ぶ姿をみて、上田さんは「とてもやりがいを感じています」という。


交通費や施工料などのほかは、料金は成功報酬で5万円。「盆栽も“生き物”だからうまくいかないときもある。そうした場合には報酬はいただきません」と上田さん。「木と思い出を残すことで、身近な自然環境を守っていきたい」と話している。